(by JIN)NHK「麦客 中国・激突する鉄と鎌」を観た

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(by JIN)
NHKのBSハイビジョン特集で「麦客 中国・激突する鉄と鎌」を観ました。2002年の作品の再放送です。
http://archives.nhk.or.jp/chronicle/B10002200090208230030129/

このドキュメンタリーを観て、中国人と日本人の労働観の違いを感じました。今回のブログでは、その労働観の違いについて、次の順序で語ります。
■麦客とは?
■中国人の労働観と日本人の労働観
■労働観の違いをどう考えるか?

■麦客とは?

2002年当時、中国中央部に広がる黄河流域には豊かな小麦畑が広がっていました。小麦は収穫の時期を迎えると10日ほどで収穫を済ませなければなりません。そのため、小麦の収穫時期には多くの労働力が必要になり、昔から、北部の農民が数十万人の単位で、黄河地域に刈入れの出稼ぎに来ていました。

これが、麦を刈る人=「麦客(まいか)」です。

昔、麦客は、手作業で麦刈りをする人を指しました。しかし、北部地域の農民の中でも、農業を事業として成功させ、余裕資金を手にした者は、個人でトラクターを所有するようになってきました。彼らは、北部地域から3日3晩かけて、1000Kmの道のりを時速20?30Kmのトラクターを運転して麦刈りへと向かいます。彼らは、トラクターを使って麦刈りをするので、「鉄麦客」と呼ばれています。

一方、北部地域の農民の中にも、昔ながらの農業を続け、それほどお金を稼いでいる訳ではない人たちもいます。彼らは、麦を刈り取るクワ1つを抱え、バスと貨車(場合によっては無銭乗車)を乗り継いで麦刈りのために南下します。彼らは昔ながらの麦客なので、「老麦客」と呼ばれます。

麦刈りシーズンを迎えた黄河地域の町では、農家の人たちが麦客を求めて、自然発生的に労働市場が形成されます。鉄麦客はトラクターを使いますが、トラクターは脱穀作業まで自動でこなすため、労働市場においては、鉄麦客の方が高く買われていきます。一方、老麦客は、トラクターの入れない山間地域の農家等に安くで買われるといった構造になります。

鉄麦客は、しかも、トラクターを利用するため、老麦客に比べて数十倍の土地を耕されるため、収入も数十倍となり、鉄麦客と老麦客との間に大きな所得格差がついています。

このドキュメンタリーは、9年前の2002年の話なので、現状がどうなっているかは分かりません。しかし、当時はそうした状況でした。

■中国人の労働観と日本人の労働観

このブログを書く前に、他の人たちがこの番組をどう観たかが気になって、少し他のブログをググってみました。そこでの感想は、概ね、老麦客に同情を寄せる内容でした。

しかし、私は、そうしたことよりも、鉄麦客・老麦客に共通して、何かその考え方に違和感を感じました。突き詰めて考えてみると、それは、中国人と日本人の労働観の違いにあるのではないかと思い当たりました。

そうした考えの切っ掛けになったのは、この番組を観た話をしたときに、勤務先のフランス人の方から言われた「昔の日本人の東北地方からの出稼ぎと何が違うのか?」という質問でした。たしかに、「出稼ぎ」という言葉で括ってしまえば、中国も日本も同じです。しかし、何かが感覚的に異なるのです。

考えを進めているうちに思い出したのが、先日NHKで観た2つの番組です。1つは、プロジェクトXの再放送として放映された、襟裳岬の植林事業です。もう1つは、「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられた津軽海峡のマグロ漁師の話です。

北海道の襟裳岬は、昔、昆布の宝庫でした。それが、昭和初期に行われた岬周辺の森林伐採によって、森林から海に栄養分が流れなくなり、昆布の水揚げが激減しました。そして、伐採された土地は砂漠化してしまいました。しかし、昆布漁一筋に命を賭けた人たちが、何もない砂漠に最初の一本から植林を始め、50年経った今、ようやく森林が回復され、昆布漁も復活したという物語です。プロジェクトXの初回放送時にご存命だったその第一人者は数年前に亡くなっているのですが、今では、そのご子息・お孫さんが遺志を継いで森林と漁場を守っている、というお話です。

もう1つは、津軽海峡のマグロ漁師です。彼は、中学卒業後すぐに漁師となりましたが、最初に勤めた大きな漁船での作業を数年で辞めた後は、1人で漁船に乗ってマグロを一本釣りをする漁法を40年にもわたって貫いているという物語です。彼は、青森県下北半島の最北地点にある漁港、大間で一番の漁師です。もっとも苦しかったのは周囲では釣れているのに自分だけ針にマグロがかからない日が100日以上続いたときのことです。そうした苦境にも拘らず、彼はマグロ漁を貫き、「やれることは全部やる」という信念を持って毎日マグロに戦いを挑んでいます。

襟裳岬の漁師・マグロ漁師の両方に共通しているのは、1つの仕事一筋人生数十年を貫き通していることです。

日本の出稼ぎの場合も、どうしても、そうした日本人の職人気質の方に想いを寄せてしまいます。出稼ぎの人たちは、家族で都会に出てこようと思えば出て来れる人たちです。でも、北国での農業や漁業の仕事に誇りを持っていたり、親の介護という事情があったり、故郷を想う気持ちが強かったり、ということで、あくまで本拠地は北国に置いているのです。

これに対して、麦客の場合、恐らく、老麦客は、お金さえあれば、すぐにトラクターを購入するでしょう。そこには、腕一本での麦刈りを徹底して貫くといった仕事自体に対する誇りといった姿勢は見られません。その点が、襟裳岬一筋・マグロ一筋といった所に命を賭けてしまう日本人とは違う所です。

また、麦客は、老麦客・鉄麦客のいずれも、お金等の事情が許すのであれば、すぐに地元を離れて豊かな地域に移り住むと思います。その場合には、職業を変えることも何ら厭わないでしょう。

こうした中国人の傾向は、農民だけでなく、都市で暮らすビジネスマンにも見られます。彼らは、そのときに儲かっているのが工場であれば工場経営に乗り出し、不動産が儲かるとなれば不動産会社の社長に早変わりします。

このような中国人の心情の背景にあるのは、「お金」です。儲かりさえすれば、仕事は何でも良いのです。その元になっているのが、鄧小平の改革開放政策です。「先富論:先に富むことが出来る者から富んで良い」といった思想から拝金主義の思想が社会に広まっているのです。

中国の出稼ぎと日本の出稼ぎとの違いは、中国人の拝金主義と日本人の仕事への美学といった点にあると思い至りました。

■労働観の違いをどう考えるか?

中国人と日本人の労働観について、どちらが良いとか悪いとか言うことはありません。日本人として大切なのは、中国人と接する際には、中国人のそうした価値観を理解してお付き合いをしていく、ということです。

中国とはビジネス上切っても切れない関係になってきている今日、中国人とビジネスでじかに接する機会も増えてきます。中国にビジネス展開するケースも益々増加するでしょうし、中国で日本の本社採用をして日本のオフィスにやってくる中国人も増えて来ると思います。そうした際に、こうした価値観の違いを理解しておくことは役に立ちます。

(by JIN)

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