(by paco)尖閣諸島問題の日本人発言はほとんど的外れ

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(by paco)最近、意図的に政治問題について発言している。<おとなの社会科>をやっていることもあり、以前より積極的に発言しないと、カッコがつかない、ということもあるし、発言するということはそれだけ自分自身に正確な分析を課すことで、自分の厳しくなれるという効果もある。もちろん、発言するということは、分析にしても、予測にしても、はずすリスクが高くなり、かっこわるいことも多くなる。でも、それも含めて引き受けないと、無責任感が漂うことは明かで、これまで以上に背伸びしても書いていくことになると思う。

もうひとつ、お気づきと思うが、文体を変えている。これまで、ですます口調の易しい言い回しで書いてきた。今でもテーマによってはそうしているが、社会に厳しいことをいうからには、これまで以上に断定的にいう必要があると考え、きつめの言い回しを意図的に行っている。そのぶん、指摘が的外れになることも多くなり、リスクは僕自身が負うことになる。始めてしまった以上、それもやむを得ないだろう。

さて、尖閣問題からはじまる、日中関係である。

9月26日付のコラムで、小沢が動くことになるのか?と書いたが、今のところ、小沢がどのように動いているのか、いないのか、情報が見えない。

その後、僕は9月28日のツイッタで、「中国がノーベル賞選定について、ノルウェイにまで噛み付いた。尖閣問題だけならまだしも、ノルウェイにまで噛み付くというのはどういうことか。ちょっと悪のりが過ぎる、というより、もしかして、政権が制御不能の状況になっているか、異常事態ではないかと疑いたくなる。」と書いているのだが、実はこちらのほうが真実味を帯びてきた。

民主党では、菅首相がASEMで温家宝と「懇談」して、ひとまず「未来志向」を確認して、ひとまず沈静化しているように見える。今後どう動くかはわからないものの、中国動静で言えば、尖閣問題より、ノーベル平和賞問題のほうが大きくなった感じだ。

この間、へたれ保守陣営はここぞとばかり民主党政権をバカにしていたが、民主党の内部でも「国境を守る会」のようなものが結成されて、中核メンバーは尖閣に自衛隊を駐留させろとまで言っている。まったく、なにも考えていないにもほどがある。

◆北京政府を揺さぶる人民解放軍、の構図が正しい認識

そんな中、JMMで中国レポートを書いているふるまいよしこのレポート(10月7日付)が届き、これは説得力のある分析である。JMMをとっていない人は、サイト
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/title4_1.html
で見れるが、サイトアップはタイムラグがあり、もうちょっと時間がかかりそうだ。

ふるまいよしこのレポートは、正直、あまりおもしろくなく、これまでほとんどワッチしていなかったのだが、今回のレポートはとてもよかった。要旨をまとめると以下のようになる。

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(1)北京政府と人民解放軍は別の動きをしていて、人民解放軍が、2012年の胡錦濤体制終結に向けて、政府に揺さぶりをかけている。政府は、日本と人民解放軍の両方の動きに翻弄され、コントロールし切れていない。

(2)今回、中国から「報復」として行われたこと……レアアース、関税、民間人逮捕は、みな解放軍のコントロール下の事象。中国では歴史的経緯から、地下資源や関税、税関は解放軍の担当で、北京政府の指示がないうちに、勝手に動いた可能性がある。

(3)平和な時代が続き、解放軍の役割がなくなり、政府も文民が主導権を撮っている。解放軍が権力を維持するために、国内外に緊張状態をつくろうとしている可能性が高く、2012年のポスト胡錦濤体制の方向付けに、軍の意向を反映させることがねらい。

(4)ちなみに、発端になった「尖閣での漁船衝突」は、あくまで突発事項。中国では、取り締まりで検挙されそうになった一般市民が、官憲に殴り刈る「逆ギレ」はよく見られる行動。それを「衝突したからスパイ船だった」などという日本人は、中国を知らなすぎる。

(5)尖閣諸島を「自国の領土」と中国政府が言っている以上、そこで国民が日本の国境警備隊に拿捕されれば、「無傷で返せ」を言わざるを得ないのは当然の立場。それを知った上で、どのように扱うかを決められない日本政府は、単なる外交音痴。日本の立場だけを主張してもなにもならないことは明らかだし、これまでもそうしてきた。
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上記は、いわゆる要約ではなく、僕なりの解釈が入っているのをお断りしておく。

現在では、多くの国が文民統制というしくみをとって軍をコントロールしている。日本も同様で、自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣であり、米国では、大統領が米軍の最高指揮官である。総理大臣も大統領も軍経験者である必要はなく、一般市民の選挙によって選ばれ、国の指導者として信任されると、国家の機能のひとつとして、軍を統率する。

この点、中国は共産党一党独裁の国であり、共産党直属の軍隊が人民解放軍なので、共産党と解放軍は一体化していると考えがちだが、そうではない。

胡錦濤の前の江沢民がリーダーだった時代までは、毛沢東からはじまって、トウ小平もすべて人民解放軍の出身だった。胡錦濤は軍歴がなく、いわば、高学歴エリートから中華帝国の「皇帝」に上り詰めた人物だ。

現在の中国の繁栄の祖を築いたのは、毛沢東(中国共産党の創始者)の死後、実権を握り、「引きこもりの文化大革命」を終わらせて、「金持ちになれ路線の改革開放」を推し進めたトウ小平だ。そのトウ小平が、自ら後継者に選んだのが軍歴のない胡錦濤であり、このことは、「これからの中国は、文民統制で国を運営しなければならない」というメッセージだろう。

しかし、もちろん軍というのは、そう簡単にはいうことを聞いてくれない。常に文民をバカにし、「軍のことは軍人にしかわからない」「外交に頼るのは弱腰だ」「軍に任せれば決着が速く、成果も大きい」と主張する。日本が太平洋戦争で惨敗したのも、米国がベトナム戦争、イラク戦争に惨敗したのも、こういう軍の主張があったからだ(もちろんそれだけが敗因ではない)。戦争は、時に国力を増大させるが、戦争ばかりしていれば、国は疲弊する。特に経済発展を軌道に乗せて繁栄させようとすれば、軍の役割は小さくなる。軍艦とともにやってくる商人を信用する国はないからだ。

中国は、経済発展のまっただ中にあるが、解放軍にとっては冬の時代だ。韓国からは(多分日本からも)米軍が撤退して緊張関係が弱まりつつあるし、植民地だった香港をイギリスの手に取り戻すのも、軍の手を借りずに外交で決着がついてしまった。台湾に侵攻して「開放する」ことも、すでに現実的ではなく、中国に吸収されるにしても、香港型になるだろう。日本は、いずれにせよ憲法で手足を自ら縛っているので、解放軍が日本と直接交戦して戦功を上げることはできない。こうなると、解放軍の出番と言えば、大地震の時の救援とか、各地の動乱の鎮圧、有人ロケットを打ち上げてみる、ということになる。地震はめったにないし、動乱の鎮圧は、国民や世界に対してアピールするようなものでもないので、戦功にならない。となると、今の解放軍の存在価値はどんどん薄れていているのが実態だろう。

胡錦濤現「皇帝」の後継者に一番近いのは、国家副主席の習近平といわれている。習は軍歴はあるものの、基本的には文民であり、解放軍の将来に対するいらだちは理解できる。

そこに、日本との間で国境問題につながる事件が起きた。しかも、これまでの方針から打って変わって、日本は中国漁船を「逮捕」してしまった。国境を守る軍としては、日本に対して強い態度に出る口実ができ、強い態度に出れば、日本との間で国境紛争などやりたくない北京政府に対して揺さぶりをかけられる。胡錦濤政権のあせりを見て、レアアース輸出業務停滞、東シナ海のガス田開発に船を送る、軍施設の撮影をしたという微罪で日本人を逮捕、と矢継ぎ早に手を打った。これらはいずれも、北京政府ではなく、解放軍の管轄とわかれば、構図が読み解ける。

中国は今、ベトナムとも国境と漁民をめぐるトラブルを頻発させているが、これも解放軍の揺さぶりと見ることができそうだ。

◆日本のズレ

これに対して、日本の政府、政治家、メディア、へたれ保守学者の言い分を聞いていると、このような中国側の事情などはまったく分析せず、単に「中国が調子に乗ってでかい態度に出た」とだけ言っている。「下手に出るとなめられる」と。

下手に出るとなめられるのは、外交はいつでもそうだ。しかし、下手の反対は、「強気」ではない。「したたか」であり「戦略」だろう。

隣国のくせに、日本の政府も政治家も学者も、中国に対する理解も分析も不足しすぎている。市井のライターのふるまいの方がはるかに中国を深く理解している。

民主党政権で中国をよく知っている小沢、鳩山は、菅と仙石にはずされたまま、表に出てこない。

中国に限らず、「おつきあい」は人間関係が基本だ。個人的に話がつけられる関係の人を、政治(政府、与党、野党、地方政府)、文化、経済などにいくつもパイプをつくり、緊急事態の時にすべてがそれぞれに相手とつながって、情報を集め、もっとも適切な落としどころを探し、それに向けて戦略的な行動を取ることべきなのに、実際には、この大きな隣国に対してなぜかパイプが細く、情報が流れない。最も太い小沢パイプを詰まらせてしまったことが、事態を悪化させている。

政府と政治家のだらしなさ、特にこのタイミングに「国境を守る」とか「尖閣に自衛隊を」と言っている外交センスのなさにはあきれかえる。落としどころも探さずに、強気に出れば、上げたコブシを下ろせなくなるのは、歴史上何回も繰り返してきた。

ちなみに民主党議員で尖閣に自衛隊をといっている人物のインタビューを聞いたが、「弱気に出たら負け」というだけで、中国という国への理解も、情報もなければ、当然戦略もないことがわかる。くだらない議論をばかでかい声で言って点数を稼いだ気になるのは本当にやめてほしい。

もちろん、マスコミもへたれ保守学者も同罪。

◆尖閣は国境問題ではない

ちなみに、こういう場面で、尖閣諸島の帰属問題に決着をつけるとかいうのは、まったくナンセンスで外交感覚ゼロの発想だ。

なぜか?

尖閣の領土問題があるとすれば、それは経済問題だ。EEZ、つまり経済水域がこの島の存在で大きく広がる。島自体に価値はゼロだ。当然中国にとっても同じ。

つまり経済権益を中国とどう分け合うかという議論であって、領土問題ではない。そのため、トウ小平は日本の中曽根政権時代にこの問題について「領土問題にするのはやめて、経済優先で考えましょう」と決着をつけて死んだ。合理的な人物である。そしてそれ以来、日本は領土問題と同時に経済問題も手をつけなくなってしまったが、その間に中国は経済利権であるガス田開発に手をつけた。日本は経済利権と領土を一緒に議論することで、逆に議論できなくしてきた。切り分けて中国と話し合いがついてしまうと、中国と仲良くなってしまい、米国に嫌われると考えてきたからだ。日本がわざわざ尖閣の経済問題に手をつけなくしているうちに、中国はガス田開発に乗り出した。中国はエネルギーが不足していて、日本の事情に合わせている余裕がないのだ。

尖閣諸島問題を解決したければ、領土問題にしてはいけない。あくまで資源の試掘研と試掘の投資、掘り当てたときの分配交渉を、契約上、いかにうまくやるか。相手に約束を反故にされないために、どんな担保を取ればいいか。そういう交渉ごとの問題だ。ここでは相手に大きくゆずる必要はないが、中国のエネルギー不足には配慮して、多めに与えて恩を売る(恩を売ったとちゃんと約束させる)ことはありうるだろう。何を与えて、何を得るかを、個人と個人の約束にまでして、初めて契約は守られる。中国はメンツの国。国を代表する人がはっきり約束すれば、のちに守らなければ、メンツがつぶれる。これは嫌うだろう。

今回、尖閣諸島で、日本が漁民を逮捕したことは、日本が中国の、トウ小平のメンツをつぶしたことを意味する。国境問題にはしないという約束を一方的に、しかも無自覚に破ったわけだ。中国がかんたんには引けなくなるようなことをして、中国を非難する日本は、もしそれが計略ならまだいいが、そんなしたたかなことができるぐらいなら、いまごろ日本は東シナ海でガス田を掘っていただろう。

尖閣の海で漁民がぶつかったのは、荒くれ漁師が「逆ギレ」でやったこと。日本の巡視艇がつぶれてしまったのでカッコがつかないから、いったん石垣島に連行するも、「逆ギレ」程度だったようだから、今回はそのまま釈放、中国政府は、荒くれ者を海に放さないでね、といえばいいのだ。こうしても日本に損は何もない。

それが、逮捕、司法判断、となると、中国の主権の主張と真っ向からぶつかってしまう(司法権は主権の最大の発動)。中国の主張が日本の主張と違っていたとしても、中国にとって放置できないことをすれば、ことがこじれる。こじれるのはいい。それで、日本に何か得るものがあるなら。

何もないじゃないか。もともとくだらないことからはじまったのだ。こじらせるなら、ガス井の1本ぐらい取る覚悟がなければ、やるべきじゃない。一方、解放軍は、これをここぞとばかり利用した。まったく日本は無駄なことをする。

ちなみに、中国北京政府と解放軍の思惑とは別に、中国の市民感覚では、こんな感じらしい。

▼9月23日付のふるまいレポート
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report4_2185.html
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ツイッターの中である人物が突然、「釣魚島(尖閣)は中国の領土だ!」と叫んだ。すると、その人物にあててどっと返ってきたのがこんなメッセージだった。
 
「釣魚島が中国のものかどうかと宣言する前に、お前の家が建ってる土地が自分のものだと宣言してみろよ!」※1
「国内が矛盾だらけなのに、国外の矛盾を膨らまして大騒ぎしてごまかそうとするんじゃない」※2
「中国人の自由と人権さえ守ってくれるんであれば、オレはそれがどこの帝国主義に属する土地だろうがかまわねぇよ」※3
「安全で、子供が健康に成長できる食べ物が安心して手に入るんだったら、日本領になった釣魚島に引っ越したいくらいだ」※4
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念のため、解説。

※1 中国は土地は国有(共産と政府の所有)。利用権を個人が獲得できるに過ぎない。
※2 中国では貧富の差が広がるなど、社会の矛盾によって、全土で年間数万件の暴動が起きている。逆ギレの連鎖が暴動、とも言えるかもしれない。
※3 中国政府は、国民の自由と人権を尊重するという憲法を持っていない。
※4 日本で起きた毒餃子事件もあり、中国人は自国の食糧の安全性を信頼していない傾向がある。スーパーマーケットの高級品は日本製。

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まったく、市井の分析者の僕でさえ、このぐらいのことはかけるんだから、専門の学者や外務官僚、外交畑の政治家ぐらい、もうちょっとまともな発言をしてほしいものだ。日本の劣化は、まさに知識層、エリートの劣化である。

みんな、せめて<おとなの社会科>ぐらい勉強しようね。

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