(by JIN)ポッポ、ナイナイ

| コメント(0) | トラックバック(0)

(by JIN)
その日、娘が起きた8時頃、父親の私はまだ自宅にいました。

平日は6時前後に出て行ってしまうため、朝、娘と会う機会はないのです。父親がいる日・・・それは、休日の土日なのですが、2歳の娘には曜日などどうでもよくて、その日は、「朝から散歩に連れて行ってくれる人」がいる日なのです。娘が起きた時、私がガサゴソしている音を聞きつけて、一歩一歩足を後ろ側に30度位ずつ曲げながら、パタパタと駆け寄って来ました。見ると寝起きのいい娘は、つい一分ほど前まで寝ていたのをすっかり忘れたかのように顔をほころばせて笑みが口元からほっぺの辺りまで満面に広がっています。80センチの高さから私を見上げて発した言葉は・・・

「ポッポ、行くぅ?」

娘が散歩を好きになり始めた1歳過ぎ、鳩に餌をやるのに夢中になった時期があります。散歩に出かけるのは、娘にとって鳩に会いにいくことと同義であったことから、散歩=鳩=ポッポとなったのでした。そして、最近は、単語だけでなくて、少しだけ2つの言葉をつなぎ合わせた表現も可能になってきました。それで、「散歩に行く」=「ポッポ、行く」となっているのです。

ところで、私は、「ポッポ、行くぅ?」に対する返答に困ってしまっていたのです。通常の土曜日ならば良いのです。でも、この土曜日は、平日の仕事が終わらずに週末に持ち越しになってしまっていました。そのため、今から、仕事にでかけなくてはならないのです。ガサゴソしていたのは、散歩の準備ではなくて、仕事にでかける準備なのでした。

返答に窮した私は、何とか娘に「散歩には行けない」ことを伝えてあげなくてはならない、と思いました。

「ポッポ、ナイナイ」と、私。

あれ・・・
「ポッポ、ナイナイ」と、娘も笑いながら繰り返します。

分かってもらえたのかな?よかった?
ホッと私が息をつくと、
あれ?娘は不思議に思ったようです。

「ポッポ、ナイナイ?」娘が繰り返します。
今度は、その意味が分かってしまったようです。

「ポッポ、ポッポ、ポッポ?!」
両手を広げてイヤイヤの首ふりをしながら、私の足元に駆け寄って来ます。

あっ!

娘は、私の前に置いてあったカバンにけつまづいて倒れてしまいました。

堰を切ったように泣き始めます。こうなっては、私がダッコしようとしても、嫌がられて、ますます号泣のボルテージが上がっていくだけです。娘は泣きじゃくりながら、妻の方に駆け寄ります。

「ッコ ッコ」
まだ、「ダッコ」の語尾だけしか発音できないんです。

妻に抱きかかえられて号泣は止まりました。でも、半べその表情はそのままです。

「ごめんよ、ごめんよ」
なだめてはみるのですが、娘の半べその表情は直りません。いつも玄関口で見せてくれる「バイバイ」も今日はナシでした。何とも気の重い1日のスタートです。

・・・駅に向かう道すがら考えました。実は、娘が泣くのは、特別な事柄では全くなくて、娘と妻と私・・・小さな3人家族の気持ちを代弁していることなんじゃないかって、思ったのです。妻は、週末私がいないと、週日と同様に娘に手がかかってしまい、息抜きのタイミングを失してしまいます。私も、仕事ばかりに時間を取られてしまうと、趣味や休息の時間を削られてしまいます。妻と私は大人になってしまったので、自分の気持ちを正直にストレートに表現する「泣く」ことをしなくなってしまっただけなのです。本当は、心の中では泣いているのです。その本当は泣きたい気持ちを娘は思い出させてくれたんだと思いました。

翌日の日曜日、今日も仕事に出かけなくてはなりません。今日は音を立てないように準備をしていたのですが、やっぱり娘は起きてきました。さっそく・・・・

「ポッポ、行くぅ? ポッポ、行くぅ?」

私は、何も言えませんでした。ただ黙って娘の前にひざまついて、娘を両手でしっかりと抱き寄せました。

え?ポッポ、行けないの・・・?

普段と様子が違うことに、娘は敏感に気付いたようです。娘の晴れ晴れとした表情が急速に泣き顔へと変化し始めました。

・・・今日は、私も、もう耐えられません。

「分かった、ポッポ行くよ」

「ポッポねぇ ポッポねぇ ポッポ行くぅ! ポッポ行くぅ!」
娘の表情に笑顔が戻ります。

いつもはたっぷり公園で遊んで30分位かけて歩くコースを今日は短縮して5分です。でも、最近していない肩車です。いつもと見える景色が変わって、娘は大はしゃぎ。

家に入る前に、「楽しかった?」と聞くと、「はうん!」と大きく頷きます。

さあ、それでも、もう家から出発です。

「じゃあね、バイバイ」

「じゃね バーバィ」

今日は笑顔で手を振ってくれました。

(by JIN)

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://w0.chieichiba.net/mt/mt-tb.cgi/657

コメントする