(by paco) [知恵市場 Commiton] 見本版 357立山黒部アルペンルート、旅行記(1)

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この前の水曜日と木曜日、立山黒部アルペンルートに遊びに行ってきました。まったくの平日ですが、こういうタイミングに休みが取れるのが、フリーランスの特権です。土日も基本、スタンバイモードですからね(^^;)

立山黒部アルペンルートには、以前から行きたくて、六兼屋からは比較的近いので、「家ができたらいこう」と思っていたのに、何と8年もかかってしまいました。行ったことがない人が多いと思うので、この観光ルートって、どういうところなの? という基本から書いていきたいと思います。

●日本でいちばん大きな「水集めの漏斗(じょうご)」
立山黒部というのはどこか? 富山県と長野県の県境に位置する、北アルプスの山と渓谷の地域です。まず、左の図を見てください。ざっくり模式図になっています。この地域を頭に入れるには、まず北に向かって開いたY字型の大山脈をイメージしてください。標高は3000メートル級の山が連なる日本最大の山脈で、この図のY字型の部分で南北50kmぐらいになります。北アルプス自体は、この南にさらに連なっているのですが、それは省略。

北アルプスを松本の西側あたりから北にたどって見ましょう。上高地の上にある穂高の次に槍ヶ岳、鷲羽岳(わしばだけ=2924m)。ここから山脈は北に向かって二手に分かれ、西側は薬師岳、立山(たてやま)、剱岳(つるぎだけ)と3000メートル前後の山が続きます。この西側(左)の山脈を「立山連峰」、東側(右)を「後(うしろ)立山連峰」と呼びます。

といっても、この呼び名は富山県側から呼ぶ言い方。富山市内から東の山を見ると、立山がいちばん存在感があり、その立山が連なる山脈と、その裏側の山脈、という区分での呼び名になります。一方、長野県側、というか北アルプスという観点では、東側の山脈も「うしろ」とは呼ばれたくないでしょうねえ、と思います。この「後立山連峰」の方が高い山が続くし、鹿島槍ヶ岳、五龍岳、白馬岳など有名な山々、そしてその麓にはたくさんのスキー場が並びます。しかしそれはそれ、という感じで、富山市からの眺望では、確かにこちらが「後立山連峰」という位置で、この呼び名はよくわかります。

さて、立山黒部を理解するには、このY字の谷のスケールとポジショニングをつかんでおくのが原則です。この北アルプス北部は、日本海の海岸線からいきなりドンと3000メートル級の山脈が立ち上がっている場所です。冬になると大陸から北西風が吹き付けるのですが、この北西風は日本海を渡るうちにどんどん水分を含んでいきます。日本海は南側が対馬海峡で太平洋と分かれますが、太平洋を北上する黒潮が日本海にも支流となって流れ込み(対馬海流)、大陸からの乾いた冷たい季節風は温暖な海からたっぷり含んで、北アルプスにドンとぶつかるのです。海面近くを進んできた季節風がいきなり3000メートルを超える高さに押し上げられるために、100メートルに付き0.6℃、3000メートルで18℃、一気に冷え込んで、今度は結露するように水になって落ちてきます。季節は冬、冷えた水は雪になり、北アルプスにどんどん、どんどん、どんどん降り積もっていくわけです。

北陸地方の積雪は平野部でも数メートルに達することが普通です。それが、北アルプス山中では10メートルを超え、場所によっては20メートルにも達する。こんな大量の雪が降るところは、世界の中でもごく限られています。シベリアも南極もアラスカも、冷え込みでは北陸の比ではありませんが、水分を補給する海と暖流がある場所が限られているために、降水量そのものが少なく、北陸のようには降らないのです。

さて、もう一度地図を見てください。北に向かって開いたY字の山脈の間は、南北数十キロにおよぶ巨大な峡谷になっています。ここに大量の雪が降り積もり、春になるとふたつの連峰の斜面を下り下って谷に流れ込んで、北に流れ、日本海に注ぎます。これが黒部がです。源流はY字の山脈の分岐点にある、鷲羽岳。全長85km。黒部峡谷は、日本海から季節風で持ち上げられた水を集め、ふたたび日本海に返す、巨大な漏斗(じょうご)のような形になっているのです。いわば日本一大きな、水集めの装置です。

この豊富な水量を何とか利用できないか。こうしてつくられたのが黒部川沿いにあるダム群で、最大のものが「くろよん」として知られる黒部第4ダム、いわゆる黒部ダムです。今回の記事である立山黒部アルペンルートは、この黒部ダムが造られたことの副産物として、北アルプスと黒部峡谷を観光する移動ルートなのです。

●東から、二本の山脈を串刺しにするルート
立山黒部アルペンルートは、ざっくり見ると、黒部ダム位置で、東西二本の山脈を左右に串刺しにする交通ルートです。

東側の起点は信濃大町駅の西にある扇沢。ここはすでに標高1400メートルにありますが、ここまでは普通に車やバスで来ることができます。旅行者はここでバスを降り、あるいは車を止めて、東の山脈(後立山連峰)を突き抜けるトンネル(関電トンネル)をくぐります。トンネルの中を走っているのが、今はここにしかないトロリーバス。4kmほどのトンネルをトロリーバスでぬけるのに15分ほど。

とはいってもそのうえには標高2600メートルの赤沢岳がそびえています。最初の東の山脈を抜けると、そこは黒部峡谷のど真ん中。そこに、黒部ダム(黒四ダム)がどんど立ち上がっていました。高低差180メートルのコンクリート製ダムは、完成したのが1961年。僕と同じぐらいの歳です。それにしても、こんな切り立った谷によくダムを造ろうとしたものです。もし、関電トンネルと黒部ダムがなければ、ここは人が訪れることを阻む深い谷の底に、ひっそりと谷川が流れる秘境だったはずです。事実、このダムの下流は今も登山ルートの整備も不十分で、登山者が歩くことさえなかなか難しい、秘境中の秘境のままです。Y字型の東西の山脈がはるか上方にそびえ、正面には立山、左手のダム湖の向こう、上流には鷲羽岳、下流には白馬岳がはるかに見えます。まさに北アルプスの地図の中にいる感じです。

立山黒部アルペンルートは、このダムの上面を歩いて渡り、黒部峡谷の向こう岸に着きます。のんびりした散歩道ですが、ダムがなかったら、と思うと、巨大な谷のこんな場所を歩けるはずもありません。

谷の向こう岸、Y字の左側の山脈の麓に着きました。ここから一気に山頂近くまでルートは駆け上がり、立山山頂のちょっかをトンネルで抜けて、左側の山脈を串刺しにします。

さて、写真を見てください。黒部ダムの向こう側に小さなコンクリートのトンネルが口を開けています。ここから立山を一気に超えるルートを造ったことで、立山黒部アルペンルートはメジャーな観光地へと成長できました。どうやってこの斜面を向こう側に抜けるといいでしょう?

答えは2枚目をみてください。ルートはここにふたつの乗り物を造りました。まず湖畔のダム裏の岩山をくりぬいて、ケーブルカーを設置。岩山の上面は黒部平と呼ばれるちょっとした丘になっています。ここから立山山頂直下500メートルほどところまでロープウェイを設置。この山頂直下をトンネルで抜いて、その中を再びトロリーバスで、西側に抜けます。湖畔が標高1450メートル、ケーブルカーとロープウェイを乗り継いで、トンネルの入口は2350メートル。一気に900メートルを乗り物で上って、トンネルをくぐれば、西の山脈の西側、室堂平(むろどうだいら)に出られるのです。扇沢から室堂まで、最短で乗り継げば、片道1時間半、4410円。でもさすがにこれでは味気ないので、片道2?3時間見て、扇沢から室堂を往復日帰りすることも十分可能です。

扇沢から室堂、さらにその下の立山町までのルートを旅行する人の数は、年間100万人以上。最近では台湾、韓国、香港、上海などからの旅行者が増えていて、今回もたくさんの、というより、ここは外国?というぐらいの旅行者数でした。

もちろん、この反対に富山側から長野側に抜けてもいいし、途中で折り返して戻ってもOK。ただ、いずれにせよマイカーは入れないので、クルマの場合はどちらかの側に止めて戻ってくるか、あるいは一方から一方に回送してくれるサービスもあります。ただし、日本海側を回って5時間ぐらいかかるので、2万6000円と高価です。

●乗り物づくし
立山黒部アルペンルートの魅力のひとつは、男子ならけっこうワクワクしがちな、乗り物の豊富さです。関電トンネル、立山トンネルのふたつのトンネルを運行しているのはトロリーバス。ケーブルカー、ロープウェイと、排ガスや騒音を出さずに運行できるエコで楽しい乗り物ばかりです。とはいえ、ルートが開通したのが昭和46年(1971)ですから、すでに37年の年月がたち、改修はされているものの、昭和のレトロな雰囲気にあふれている感じです。

扇沢から黒部ダムまでの関電トンネルは、関西電力が黒四ダムの工事のために造ったトンネルで、完成後、観光用に整備されました。当初はディーゼルバスが走っていましたが、環境保護のために電気で走るトロリーバスに変更されています。トロリーバスは、かつては東京でも路線バスとしてたくさん走っていました。僕は子どものころ乗ったことがあるのですが、読者の皆さんは、経験なしかもしれません。道路上に架線があり、2本のパンタグラフで電気をとって、モーターで走ります。車輌区分上は「無軌道電車」ということで、路面電車のひとつです。架線がある専用の場所しか走れません。見た目はバスで、パンタグラフは箸のような二本棒。電車と違って、走る位置が多少左右にずれるので、ズレを吸収するために長めになっています。ボディ背面にパンタグラフを引き下げるワイヤーで結ばれています。乗ってみるとただのバスですが、モーターによる力強い走りと、騒音の少なさ、そして何より、トンネル内でもまったくくさくないので、快適です。トンネルは、1車線分しかないので、中央付近に行き違いの場所があり、向こうから来るバスと交換します。

ケーブルカーは、黒部湖畔から立山の中腹までの標高差500メートルほどを一気に上がる乗り物で、これもトンネル内を走ります。ただし、平均斜度は30度近い絶壁をのぼるので、車輌そのものがはじめから傾斜しています。ケーブルカーなので、レールの間にワイヤーがあり、上り下りの車輌が両端に結ばれていて、同時に上り、下って中央で行き違う方式です。30度といえばスキー場でも上級コースですから、乗り物としてはすごい傾斜で、エスカレータというよりエレベータに近い感じです。

ロープウェイは、黒部ダム上部の岩山から立山直下のガケにある駅を結ぶ標高差400メートルほどルートです。ワンスパンで、途中に支柱が無く、まさに動く展望台。雄大な黒部峡谷を眼下に、目の前にはY字の両側にある3000メートル級の山脈を見ながら、ぜいたくな移動です。ちなみにこのロープウェイの窓は光触媒塗装になっていて、曇ったり汚れたりしにくい工夫がされています。

ロープウェイの駅はそのままトンネルの入口になっていて、立山トンネルでY字の西の山脈をぶち抜いています。トンネル内を走っているのはやはりトロリーバス。現在、トロリーバスが運行しているのは、日本ではこのルートの2か所だけです。

トロリーバスを降りると、西側の立山連峰を抜けて、あとは富山市まで一気に下りになります。この、トロリーバスの駅があるのが室堂で、ここは立山の山岳信仰と修行の拠点でした。

扇沢(長野県)側から、「トロリーバス→徒歩→ケーブルカー→ロープウェイ→トロリーバス」と乗り継ぐのが、立山黒部アルペンルート。ロープウェイ以外はトンネル内で、最初と最後のトンネルはほぼ水平なのでトロリーバス、ケーブルカーの部分は同じトンネルでも急勾配のエレベータ状のトンネル。それぞれの乗り換え場所は、地下にあるか、あっても外からぱっと見にはわからないような場所につくられていて、写真にあるロープウェイの山頂側(大観峰(だいかんぼう)駅)も飛び出した岩盤に張り付くようにつくられているので、付近の自然景観に融け込んでいるのがわかります。すべての乗り物は排ガスなどを出さず、環境面での配慮はこの時代につくられたものとしては異例のきめ細かさと言えそうです。とはいえ、これだけの山岳秘境を、ハイヒールでいける場所にしてしまったことが、善と言えるのかはなかなか難しいところでしょう。しかし、逆に、これだけ手軽に大自然が堪能できる場所もなかなかありません。ただ、珍しい乗り物に乗って景色を楽しむのではなく、大自然をこれほど手軽に楽しめることの意味をちょっと考えながら、ルートをたどると、いろいろな世界が見えてくるのではないでしょうか。

ということで、無事室堂まで話が進みました。というところで、紙面が尽きてきたので、続きはまた来週。写真入りで、雷鳥をご紹介します。

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