(by paco)[ 知恵市場 Commiton]298 環境問題の基本、Q&A

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出身高校である、都立西高の同期が集まってメーリングリストをつくっています。そこで、環境問題の基本的な質問や意見が出始めました。僕と同期なので、40代半ば、高度成長期に育った年代で、今は企業の中核を担うポジションの人も多く、環境問題には今ひとつ実感が持てない人が、若い世代より多いんだなあと実感しています。

そんなMLで、「不都合な真実」についての話題から、環境問題の基本的な諸問題について意見が出てきたので、僕なりに答えを書いてきました。今回はそれを転載します。知恵市場や、僕の著書、日経BPでの連載などを読んでくれている方には、すでに何度モテを変え品を買い得て話していることですが、改めて基本を整理してみました、という感じです。会社の同僚や家族など、身近な人から環境問題について意見が出たら、こんな風に答えると模範解答(たぶん)というものばかりなので、ネタとして使ってもらえればと思います。

■Q.ゴアの「不都合な真実」は読者を煽る方向にいっているのではないか?

ゴアの主張については、相変わらずいろいろ反論があり、反論があること自体はいいことですが、「あおる」という見方をするのは、僕は適切ではないと思います。というのも、少し研究すればすぐわかることですが、ゴアの主張は至ってノーマルかつ、控えめで、現実はもっと厳しいだろうと思われる情報のほうが多いからなんですね。

環境問題を追いかけている僕らの間では、「本当にあおるぐらい煽動しないと、世の中は動かない」と主張する人がけっこういて、その場合の「あおる」というのはもっと激しい内容です。僕自身は、環境問題をファシズムの材料にすることだけは避けなければならないと思っているので、こういった意見は徹底的に否定していますが、それが正しいことなのかどうか、自問することも多い、つまり、本当に大げさにあおったほうが、結果はましになるのかもしれません。

逆に、ゴアの主張のが、実は実際の予想とは異なっていて、「あおる」ほど大げさで誇張されているものであるならいいのに、と思います。


■Q.そもそも地球温暖化について私はよく分らないんです。本当に人義的な原因で温暖化しているのか、それとも地球があったかくなった周期にいるんじゃないか?

まず、問題のとらえ方として、日本では「地球温暖化(Global Warming)」という言い方が普通ですが、世界的には「気候変動(Climate Change)」という言い方が普通です。気候が従来と変ることによる問題発生をさしているので、場所、地域、時系列の変化によって現れ方はさまざまです。温暖化するところもあれば、場所によって寒冷化するところもあるし、乾燥するところもあれば、雨が増えるところもある。ただ、いずれにせよ、人間の生活は、その土地の以前からの気候に合わせているし、動植物はもっと気候にあった体のつくりになっているので、短期間で大きな気候変動が起こると、動物は絶滅の危機に、人間は文明の危機に陥ります。

ちなみに、よく「人類滅亡」とか「地球が死ぬ」とかいう言い方をしますが、これは正しくなく、人類はおそらくかなりの環境変化であっても、しぶとく生き延びます。ただし、人口は大幅に減るでしょう。ちなみに日本列島で自給自足できる人口は0.3億人程度と見られています。1.2億人が暮らしていけるのは、工業や貿易という文明のおかげです。動植物に関しては、絶滅種が莫大な数になるでしょう。これは、かつて恐竜が短期間に絶滅したのと同じです。

今いちばん問題にすべきは、人類の滅亡ではなく、文明の消失、または大幅な衰退です。別の言い方をすれば、生き延びさせるべきは、「人類」ではなく、「文明」だと考えるのが合理的です。ここまで築いてきた快適で安全な生活=文明を、どのように維持するか。気候変動は、文明の危機なのです。

僕らが習った古代文明は、地球の気候が安定した1万年前以後にその萌芽が始まっています。そしてこの1万年は、地球の歴史の中でまれに見る気候の安定期だったことがわかっています。

気候の激しい変動は、この1万年に限っては珍しく起きてなかったために、文明が発達した。そしてその気候が安定を失いつつある。それが今の状況です。

ではその気候の変動が起きている理由は何か、というのが問題です。いちばん有力なのが、温室効果ガス(CO2やメタン)で、これが今のCO2排出規制の動きになっています。でも、もちろん、異説もあります。有力なのが、太陽の黒点周期説と海洋による水蒸気やCO2の吸収/放出説ですが、これらの諸説の中で、もっとも有力なのが温室効果ガス説だと言うことに過ぎません。つまり、本当にこの説が正しいかどうかは、証明されていないのですね。

温室効果ガス説が有力なのは、IPCCという国連関係機関に参加する、世界の2000人以上の専門家・科学者の研究結果の総合から、ということになります。もちろん、これだけの人数がいると、異説を唱える研究者も入っていますが、一定の科学的な議論の末、温室効果ガス説が一貫して支持されているのが現状です。ちなみに、今年はIPCCの第4次報告の年で、先月発表された速報版では、気候変動の事実は明白で、全体として明らかに温暖化しており、その原因は人為的な活動によるものだと「初めて断定」しています。まだ詳報版が出ていないので、この断定がどの程度の正しさがあるのかまでは検証されていませんが。

また、IPCCが政治的に利用されているという説もあります。脱石油を図る政治グループなどが、意図的に研究結果をねじ曲げているという指摘ですが、その可能性もゼロではありません。ただし、人間の英知には限界がありますから、どのような仮説を支持するにせよ、不確定な要素がある中での選択になることには代わりがありません。

では、科学的な知見が出そろって、温室効果ガス説が完全に証明されるまで、放置してよいのかと言えば、NOです。この仮説が証明されたときにはすでに完全に後戻りできないところに来ているというシミュレーションは出ているし、この仮説が誤りだったとしても、CO2削減そのものが環境的に害があるとは考えられていないので(経済的にはダメージがあるにしても)、生存環境を守るということを目的にするなら、仮説の状態で削減努力を始めるという結論が合理的になる、というのが、今の考え方です(また削減した結果を検証すれば、温室効果ガス説の適否も明確になります)。

ちなみに、すこし前に騒がれたフロンガスによるオゾン層の破壊は、フロン全廃という人類の努力によって、改善傾向が観測されています。その程度には、人類の地球に対する科学は進んでいるのです。

ということなので、

「二酸化炭素を減らせば、地球温暖化がとめられるという考え方には納得ができなかったので、積極的に人義的な原因をもとめるのは留保しています」

という態度は正しいのですが、ずっと留保のままでいることは、すでに合理的ではない、ということになります。

■Q.二酸化炭素の排出権取引の際に、もっとも儲かるのはどこなのか。排出権市場に参加するプレイヤーを作るための教育の一環としてこういう映画を製作したのではないか?

経済的・政治的な利益を特定の誰かが得る、ということは、十分起こることですが、そうだったとしてもそれによって環境悪化が最小限に留まるなら、容認すべきことです。目的は、だれが儲けようと、経済的ダメージを受けようと、生存環境をどう守っていくのか、ということだととらえれば、合理的だということです。

それと、すでに人類は資本主義経済にどっぷり浸かっているので、経済的な見返りのない行動を全人類的に起こすのは無理だ、という考えが主流になっていて、環境に貢献するセクターは、経済的な恩恵を得るという仕組みを積極的につくろうとしています(排出権取引を含む京都メカニズムはその代表)。京都メカニズムは、京都会議の時には猛烈に評判が悪かったのですが、当時反対していたNPOも、今はやむを得ないこととして容認にする傾向にあります。とにかく温室効果ガス削減に動かなければ、何を言っても無意味、というのが共通理解になりつつあります。ですから、「うがった見方」はぜんぜんうがってなくて、環境に取り組んでいる人ほど「わかっている」ことです。京都メカニズムは、ゴアが強力に推進して、議定書に盛り込まれたものなので、ゴアがそのエバンジェリストになるのは当然です。

と同時に、このメカニズムを利用して、自分も一儲け、あるいは、自分の地位向上を図ろうという人も多く、もちろん、僕もそのひとりです。野心なく環境問題に取り組んでいる人は、あえて言えば、今や嘘っぽい、といえるかもしれません。

ちなみに、ここ2年、僕がかかわってきた環境ビジネスコンテスト「エコジャパンカップ」のスローガンは「環境で大儲けするやつが出てこないと、環境問題は解決しない」です。

ただ、現実には、環境問題で儲けたり地位向上ができるという現実は、僕らが予想している以上に、なかなかやってきませんね(^-^)→(;_;)。まあそこまでわかっていてやっているわけですが。

僕に関して言えば、八ヶ岳に家を建て、自然を身をもって学んだという投資は、莫大な利益とはいえないまでも、総合的に見て完全にモトを取っていると思います。その経験をもとに、今進行中の植林プロジェクトも、5年後には圧倒的な成功(成功ってなんだ?というのはとりあえずおいといて)を僕にもたらすだろうという野心のもとにやっているわけですが、もちろん、それは「捕らぬ狸」に終わる可能性も十分あります。そしたら、笑ってやってください。

こういうリスクテイキングな行動は、究極の起業家精神だと僕は理解しています。

■Q.今、米国でもバイオ燃料が注目されています。エタノールなどは生産時にも使用時にも大量にCO2が出るので、どれくらい温暖化食い止めに効果があるのかわかりません?

エタノールでもバイオディーゼルでも木質ペレット(木をおがくずにして、熱をかけて粘性を出し、粒状に固めた燃料)にしても製造時にエネルギーが必要です。もともとの植物資源のエネルギー量を100とすると、製造に30?50、輸送に20?30というようにロスが発生するのですが、ロスが100を超えるものはエネルギー源として使われることはないようです。このあたりは、さすがに研究が進んでいるので、使うほうが環境に悪いという新エネルギーが大きく推進されることはないと思います。
ただ、バイオエネルギーの場合、常に問題になるのが、食糧との競合で、エタノールの需要急増で砂糖が値上がりするしたり(砂糖は嗜好品だからいいかもしれないものの)、ジャガイモやトウモロコシ、大豆、米からもエタノールは作れるので、常に食料との競合になり、その場合困るのは世界の貧困層です。ここにも南北問題が生じるわけですが、21世紀の南北問題は、「南」が、「北」の国にも存在しているという点で、米国でも貧困層の問題は深刻。トウモロコシでエタノールをつくり、米国のCO2排出は少し減らせるとしても、自国内の貧困層がさらに困窮するといった事態も考えられます。もちろん、途上国の貧困層も深刻です。

このような問題を避けるためには、食料と競合しない農産物をエネルギー源として使用するという方法で、今注目されているのは「ナンヨウアブラギリ」という植物を利用する方法です。ナンヨウアブラギリは、砂漠に近いような不毛の地、農産物が育たない土地にも生育可能で、成長が早く、4年目からは収穫可能。実を搾った油を変性させて、エタノールではなく、バイオディーゼル(軽油と代替できる燃料)をつくって利用します。この方法で、世界を変えようと活発に動いている日本の若い経営者も知っていますが、スリランカ南部の乾燥地帯で栽培し、今年あたりからは収穫ができるところまでこぎ着けました。先が楽しみです。
一方、日本に限って言えば、農地は余りまくっているので、余ったのうちにナタネなどを育て、その油でディーゼルをつくる動きはすでに10年ほど前から始まっていて、「菜の花プロジェクト」として全国に広がっています(発祥の地は琵琶湖畔。河村BUNTAの地元八戸からも近い、横浜町でもやってますね)。全体最適(CO2削減)と部分最適(農地の競合)の調和が重要です。
ちなみに、木質バイオマスに限って言えば、今は木質からもエタノールをつくろうとか、ペレットをつくろうとかしていますが、いちばんいいのは、木のまま利用する方法で、要するに「薪(まき)」です。薪ストーブは今非常に性能がいいので、燃焼効率がよく、安全になっているので、薪ストーブを普及させ、燃料用の灯油の利用を減らすことが、もっとも効率のいい木質バイオマスの利用法です。

■Q.米国でも注目のバイオディーゼルは大気汚染がひどいと耳にしました。こういった損得があまり議論されないし情報もみあたらないのが不思議です。

バイオディーゼル自体は、大気汚染のリスクはかなり低いです。ひどいとすると、植物油からディーゼルをつくるときに不純物が混入しているか、燃焼技術が不十分でNOxが発生しているかのいずれかだと思います。バイオディーゼルをきちんとつくれば、排ガス中の粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)は減少し、窒素酸化物(NOx)は増加するとされています。 NOxが増加するのは、バイオディーゼルには軽油と比較して多くの酸素が含まれており、燃焼するとき大気中の窒素とより容易に結合することが原因。

ほかに、アルデヒドやベンゼンの増加もあるのですが、これらは燃焼技術と触媒の装着で抑えることが可能です。つまり、現段階で大気汚染に問題が出ているとしたら、燃料製造やエンジン技術がこなれていないことが原因で、解決可能と考えられています。

ちなみにバイオディーゼルは日本でもけっこう使われ出しています。東京自由が丘で走っている「Thanks Nature Bus」もバイオディーゼルで走っています。

■Q.映画の中の氷河の後退とかは説得力ありましたが、北極だったかな? の氷がどんどん割れている様子は、あれって季節的な現象をうつしてるんじゃないの?とか思いました。

映画で、氷が割れている映像は、その通り、通常の自然現象をとっているといっていいと思います。その意味では、誇張といえなくはない。でも、氷河の後退は深刻です。温暖化傾向は、赤道付近より極地方でより強く出ていて、現状、温帯あたりで0.5℃程度の温暖化している状況ですが、極地方では4.5℃上昇という調査があります。温暖加速度は極地方が9倍という結果で、衝撃的な報告でした。この結果、氷河は世界中で大幅に後退、消失していて、特に北大西洋に氷河から溶けた淡水が大量に流れ込むことは大問題と考えられています。北極、グリーンランド、カナダの氷河は、大崩壊が予想されていて、陸氷は最初は陸上で水になっていき、氷に囲まれたダムのような状態になります。さらに進むと、氷のダムが大決壊を起こし、一気に大量の淡水が北大西洋に流れ込む。すると、北大西洋の塩水濃度が薄くなり、軽くなるので、海水が深海に沈み込まなくなります。この北大西洋の海水の沈み込みが世界の海流を動かしていて、これが地球全体の気候を安定させているというのが、最新の学説です。北大西洋の海水の塩分濃度が下がり、軽くなった海水が沈み込まなくなると、地球の気候は大きく変わると予想されています(過去、太古の地球でこういったことは何度か起きていて、地球の生物環境に大きなダメージを与えたことがわかっています)。

南極の氷の崩壊も大問題ですが、北極付近の氷の崩壊を、世界の環境学者は恐れています。だからゴアの映画でもグリーンランドの氷河の崩壊が登場していたのです。北大西洋の海水沈み込みも映画に出てきたのですが、さらっと説明されていたのでわからなかったと思いますが。

ちなみにこの深層海流については、5年ほど前、NHKスペシャルでもシリーズ「海」として放送され、非常に緻密に説明されました。この海をつくったのが僕の小学校の時の同級生なんですよ。あとから知ったことですけどね。

■Q.環境問題は、誰かが解決策を押しつけるのではなく、なんらかのかたちで納得するように論議に参加させてほしい

まったく同感。でも、環境危機が本格化し、映画「ディ・アフター・トゥモロー」のような危機的状況になると、パニックが広がり、広くコンセンサスをとっている余裕がなくなります。余裕があるうちに、多くの人が主体的に参画することが重要です。そのためにも、今の段階でたくさんの人が興味を持ち、自分の考えを持ち、その総和として未来が選択されていくことが必要です。

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