(by paco)[ 知恵市場 Commiton] 292ヤマガラの森・森で長い時間の意味を知る

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(by paco)有料版[知恵市場 Commiton]からの転載です。サンプルとしてお楽しみください。

今週も、「ヤマガラの森」についてお話しします。今、この森についての活動に、自分の時間をなるべく割こうと思っていて、東京にいて、少しでも多くの人に会って、この話をしています。寄付や活動への協力に興味がある方で、会って話を聞きたいというかたは、遠慮なくメールをいただきたいと思います。

自然とのかかわり方を知る場として森の貴重さについて、前回お話ししました。今回は、その延長で、森と関わることで、どんなことを知ることができるのか、という点を「時間」という観点から考えてみます。

僕が木ときちんと関わるようになったのは、2001年の年初、六兼屋ができてからなので、ちょうど7年になります。森の時計から見れば、たいした時間ではありません。多くの人が、森と関わるというと、100年1000年の活動と思っています。僕自身もそう思っていました。しかし、実際に木を植えてみると、植物の変化は思っている以上に速く、たった7年でも十分に変化を実感できることがわかってきました。その気づきが、今回の「ヤマガラの森」の活動を決断させたということができます。

SANY0080.JPGP1010904.JPG7年前のいまごろ、僕はできたばかりの六兼屋の、何にもない庭に木を植え始めました。今年と違ってけっこう冷え込んだ冬で、3月になってようやく雪が融け、木を植えることができました。左の写真は2001年の3月、同じ木の2006年秋の写真が右。この木は裏の雑木林から掘り起こしてきたもので、ひょろひょろと背丈ばかり伸びて、幹はまだ直径が10円玉ぐらいの太さしかありませんでした。山桜です。7年近くたって、今の状態を見ると、太さは根元で15cmぐらい、高さは5メートルぐらいになったでしょうか。最初は葉の付き具合もしょぼしょぼしていたのが、今ではこんもり茂らせ、伸びた枝が絡んで込み入ってしまうので、毎年春に枝を少し落として、成長しやすくしています。

P1020539.JPGもうひとつ紹介する木は、ケヤキです。こちらは買った木で、2001年のゴールデンウィークに5メートルぐらいの高さに育った木を買って植えました。庭のシンボルツリーにしたかったので、植えたときからある程度の高さのものがほしかったからです。結果的には、こんな大きさの苗を買う必要はなかったのですが、それについては後述。6年前、根元で直径10センチぐらいだったのですが、今では20センチを越えている感じです。高さがそれほど大きくなってなくて、7?8メートルかな。今では子どもの木登りができそうなしっかりした木になり、見た目も安定感があります。枝を広げた投影面積は直径10メートルはあるでしょうか。庭の真ん中でたっぷり日を浴びて育っています。

実はこの木は、植えた年にたくさんのカイガラムシにやられてしまい、秋に半分ぐらいの高さに枝を切ってしまったのです。どうなることかと思ったら、翌年にはたっぷり枝が出て、今見えている上部の枝はみなこのときに伸びたものです。木は、枝を払う(剪定)することで伸びる性質があり、放置するより、ある程度積極的に枝を切ったほうが、新しい若々しい枝と葉が出てくるのです。実際、ざっくり切ってしまった年の初夏に出てきた葉は、大きな葉で、今付いている葉の2倍はありました。大きく育ってしまってから植え付けると、土がかなりよくないと、どうしても上まで養分があがらなくなり、弱って虫などにやられやすくなることを、このとき学びました。結局小さな苗木を植えたほうが、成長力があって、同じ期間で大きく伸びるのです。

今回「ヤマガラの森」に来てもらうビジネスパースンの皆さんには、こういうことも実感値として理解してもらえると思っています。「鉄は熱いうちに打て」とか「若いほうが伸びる」という言葉は知っていても、実際に「5年前にこんなに弱々しかった苗木が、こんなにしっかりするのだ」ということを自分の目で見て体験することは、大きな意味があります。今立派に見える先輩社員も新人の時はまったく印象の異なるひ弱な人だったかもしれないし、今はとても「使えない」感じの新人も、5年、しっかり延ばせば、ものすごい戦力になる可能性があるということも実感できます。

僕はライフデザイン・ダイアローグでいろいろな若い人と話します。中には大学生もいて、ちょっと頼りなさそうな、話もうまくできない感じの人もいるのですが、そんな彼らを見ながら、「この人も苗木なのだ」と思うと、数年先の発展の可能性がかなり実感をもって見えてくるのです。

PB130008.JPGP1010913.JPGP1010390.JPGそんな苗木をもっと前の「タネ」の段階から育てたこともあります。写真はクヌギのドングリです。庭に落ちてくるドングリを拾って、ひと晩水につけ、苗ポットに入れて植えてみました。翌年、ちゃんと芽が出てきて、あちこちに分けて植えたのですが、いちばん育っているものは2メートルを超え、去年からはもう次の世代、つまりドングリをつけています。5年のサイクルで、新しい世代が育っていくのには、正直驚きました。木の実から育てた木を実生(みしょう)といいますが、半端に育てた苗より、実生のほうが小さな時からその土地に根を生やしているので、成長の力が強いのです。

森と関わっていくと、植物以外の生き物とも関わることができます。その代表例が、昆虫と鳥たちでしょう。

207.jpgP1010299.JPGカブトムシやクワガタムシは、木の樹液がだいすきで、クヌギやコナラなど、雑木林の代表的な木に集まってきます。ちょっと生き物に詳しい人なら、雑木林に行くとクワガタやカブトがいるという知識を持っているわけですが、でも、雑木林だからといってクワガタやカブトがいるとは限らないのです。

六兼屋ができたころ、夏になるとカブトムシを探したのですが、まったく見つかりませんでした。おかしいなと思って調べたところ、「オチバンク」がないと、虫の幼虫が育たないことがわかったのです。そこで秋に落ち葉を集めてオチバンクをつくってみたら、翌年にはまるまると太った幼虫がたくさん入っていました。虫嫌いなかたは拡大してみない方がいい写真ですが、いちばん大きな幼虫は携帯の幅を超えていますから、まるまる太って重量感があります。顔を見ると、ちゃんとあごがあって、クワガタの幼虫であることがわかります。こうしてオチバンクをつくってからは、じょじょにクワガタやカブトムシが増え、夏の夜になると窓の明かりをめざして飛んで来るので、家にお招きして記念撮影をして、また森に帰ってもらうようにしてきました。「ヤマガラの森」でもオチバンクをつくって、虫たちを増やそうと思っています。

実はオチバンクは、かつては農家の人たちが落ち葉のたい肥をつくるために集めた場所でした。たい肥をつくって利用する場所に、カブトやクワガタが育った。だから日本の里山には、こんなにも昆虫の影が濃いのです。人が、オチバンクをつくって森を利用しなかったら、昆虫はもっとずっと少なかったでしょう。そして人がもし、オチバンクの中野幼虫を見つけ次第殺してしまったら、やはり昆虫たちは増えなかったのです。日本人は輪廻転生の思想を仏教から受け継いだのですが、インド生まれのこの思想が日本に定着したのは、生き物の循環を感覚的に知っていたからわかりやすかったのだと思います。農業に邪魔にならない限り、強制する生き物を排除することなく、共に生きてきたのが日本人でした。そしてそうやって増えた昆虫を目当てに、たくさんの鳥たちも集まってきました。六兼屋の庭に植物が増えるに従って、カエルやヤモリが増えていきました。これらは、ちいさながなど、羽虫を食べていますが、一方で肉食の鳥たち、たとえばモズのエサになります。六兼屋にも、スズメやシジュウカラ、ヤマガラはじめ、たくさんの鳥たちがやってきますが、これも庭の植物や昆虫が豊かになるにつれて増えてきたのです(最初は鳥の影もありませんでした)。

数年をかけて、少しつつ変化していく自然を見ていると、日々の人間の活動が、自然に大きく影響を与えているのがわかります。そして人間の活動が加わるほうが、自然のままより、自然を豊かにすることにも、実感を伴って気づくのです。

そしてもうひとつ重要なことは、何かを変えていくためには、急がず、長い目でじっくりものごとを動かす必要がある一方で、その変化は、気の遠くなるような時間ではなく、半年、1年、5年という期間でみると大きな変化になっているという、中長期の視点が持てるようになるという点です。

今、ビジネスの世界はどんどん単位が短時間になり、四半期ごとの収益計画を追いかけて必死になっています。それ自体やむを得ない面もあるのですが、同時に、中長期の変化を見通すことの重要性も、どんどん増しています。日常の速い流れと、数年単位の大きな時間の流れ。両方をズームレンズのように自在に行き来できる力が、先を見通すためには重要なのですが、森と定期的に関わることで、こういうものの見方ができるようなるといえます。僕自身、「先見力強化ノート」という本を書いているのですが、この本を書けたのも、実は自然と付き合ってきたことが大きな支えになっているのです。

もちろん、自然と付き合って長期的な視点を持てたからと言って、未来が確実に見通せるようになるとは限りません。それは当然のことです。しかし、未来を見通す力は確実に付くし、それ以上に、予想と違う未来がやってきてもうろたえずにすむようにはなります。これは間違いなく言えます。

もしあなたが、経営者や、経営的な仕事をめざすなら、こういう長期的な視点を持てるかどうかは、非常に重要な意味を持ちます。しっかりした経営幹部候補を育てたい企業は、「ヤマガラの森」にぜひ企業として寄付をしてください。社員を森に関わるきっかけをよいすることは、優れた経営幹部候補を育てる、遠いようで近道だと僕は思っているし、「ヤマガラの森」をそういう「人を育てる場」として活用したいと考えています。

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