(by paco)Commiton274一歩を踏み出す人 ThanksとMoney

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(by paco)有料版からの転載です。見本として、この記事のシリーズは公開しますので、ぜひお読みください?!

新しいオリジナルバッグブランドのショップ「Hearty Arty」での販売員というポジショニングを獲得したクヌギーにとっての、Thanksについてもう少し考えていきましょう。

そのまえに、Thanksという概念について、ちょっとわかりにくいようなので、説明しておきます。Thanks、つまりお礼という言葉には、自分がお礼を言うという場合と、相手からお礼を言われるというふたつがありますが、僕のライフデザインのフレームでは、相手(顧客)からお礼を言われるという意味で使っています。自分の好きなことを提供した結果として、誰かからお礼を言われるようなことをしていけば、Moneyにつながるという考え方です。

彼女の場合、Thanksにはふたつの意味合いがありそうです。

ひとつは自分が好きな本についてのThanksで、バッグと一緒に持ち歩く本を紹介してもらったということで、お店に来るお客様、買ってくれるお客様からのThanksがあります。といっても、まだ開店前なので、どんな反応になるか見当がつきません。でも、きっと、「こんな本なら一緒に持歩きたいかも」「紹介してくれてありがとう」というお客様が出てくると思います。というのは、僕はこのクヌギーについての連載を書き始めてから、ライフデザインという活動について、人に説明する機会があり、そのたびにクヌギーの例を挙げるのですが、「お店でバッグに入れて持ち歩く本を紹介する」という話をすると、けっこう多くの人が「へ?」と声を上げ、目を輝かせます。オリジナルのバッグとそれにあった本という組み合わせは、少なくとも人の興味をそそるものであることは間違いなさそうだという手応えを、僕自身、感じています。もちろん本のセレクトや店のつくりなど、いろいろな要素があるので、単純にはいえませんが、可能性は十分あるのではないかと思います。

この店の彼女の役割からすると、バッグだけでなく、本があるということで、バッグを持ち歩くときのイメージが少しでも湧くように、お客様を方向付けられれば、成功だと思います。単に「ちょっといい感じのバッグ」というだけでは、まだ「自分のものにしたい」と言うところまでは行きませんが、それをもって歩いているイメージが湧けば、「ほしくなる」ところに一歩進めることができるからです。こんな本を入れたこんなバッグをもって、こんな場所に行きたい、こんなところを歩きたいというイメージが湧けば、店に来た人はちょっとワクワクするし、そういう気持ちにさせてくれた人には、「来てよかったかな」という小さなお礼の気持ちが芽生えるものです。

もちろん、そこで生まれるお礼は小さなものです。ですから、その小さなお礼を積み重ねても、お金を払ってくれるところまでは行かない可能性が高いでしょう。たとえば、バッグを一緒に本を買ってくれるとか、さら日本の紹介料を払ってくれるとか、そういうことはほとんど期待できません。また本を買ってくれたとしても、それが十分な収入をもたらすとは思えないし、第一、現状では、本はセレクトして並べるだけで、売る機能はありません。

それでも、このようにThanksを受け取ることができるという事実は、とても重要です。自分が好きでやっていることと言うのは、人に無視されたり、理解されなかったりすることはあっても、お礼を言われることは少ないのです。さらに、ここからが重要ですが、こういったお店という、お客様と直接話ができる場面で反応が聞けることは、彼女自身にとって、とても大きな財産になるのです。人は本についてどんな興味があるのか、どんなものが喜ばれ、何が無視されるのか、どんな言葉で本に対する興味を語るのか。こういった知識を積み重ねることから、お客様が本当に求めているものや大事にしているものが見えてくれば、それを純化させる方向がわかり、本当にお客様を満足させるためには何をすればいいのかが見えてくる可能性が高い。機能としては、ブログで本についての情報発信しているのと変らないはずですが、やはり目の前で、不特定多数、初対面の人からそういう話が聞けるのとでは発見できるものがまったく違うものです。

その発見から、本当に提供すべきものを形にしていく、という次のステップが見えてくるのですが、これができればクヌギーのThanks→Moneyは本格的に現実味を帯びてくるのですが、今回はそのための重要な一歩という位置づけになるのではないかと思います。

というわけでひとつめのThanksはお客様からもらえるということですが、ふたつめのThanksは、カンの言い方はすでにおわかりの通り、ショップオーナーである本庄さんからのThanksです。店で販売や接客をする、しかもきちんとすることができれば、オーナーはそれだけでお金を払うに値する役割を果たしてくれたと判断するでしょう。しかし、クヌギーの場合、そこに留まらず、これまでの経理の知識や、持ち前のていねいな仕事ぶりを発揮して、おそらく、店の運営に必要ないろいろな仕事の流れを構築したり、その仕事が信頼感をもって回るように運営することができるはずです。こういった仕事の基本は、彼女の10年以上の仕事のキャリアの中で、そして彼女自身のまじめなキャラクターから考えて、十分以上の期待に答えられるのではないかと思います。本来の仕事以上のことができれば、Thanksを受け取ることができるし、それに対応して、Moneyを受け取ることができるといえます。

今回のクヌギーの新しいチャレンジでは、給料分以上の仕事を店の店員としてやることで、オーナーから「喜んで給料を払いたい」と言ってもらうことです。これだけのことをやってくれるなら、給料を払うのはまったく惜しくない、と思わせることができれば、クヌギーが次の展開をするときにも、オーナーは好意的に受け取ってくれるはずです。

実は、自分の力で仕事をしていくために、最も重要なことは、仕事でお金を受け取るときは、そのお金の価値の2倍、3倍の価値を発揮せよ、という点にあります。つまり、値段以上の仕事をする、ということです。価格以上の仕事をした人に対しては、人は喜んでお金を払ってくれます。その結果、お金を払った側には、払った分以上の価値が残ります。逆に言えば、その「払った以上の価値」は、未払いの商品を納品してもらった状態として残っているということができます。余分に価値ある商品を受け取っているので、顧客の側からすると、いわば「余分な価値」という借金をあなたに対してしていることになるわけです。

もう少しかみ砕いて説明しましょう。あなたがある商品、サービスを提供して、1万円と値付けし、その額を受け取ったとします。その時、あなたが提供したサービスが2万円の価値があれば、顧客は1万円分をタダで受け取った状態になるわけですが、言い換えれば、その1万円分は顧客が払っていない状態、顧客のあなたの対する借金の状態で残っていると考えることができます。もちろん、その差額の1万円分は勝手に納品した商品ですから、顧客には将来とも払う義務はありません。ここで重要なのは、この勝手に納品された1万円分の価値をそれとわかってくれる顧客と付き合うようにすることです。つまり、今は1万円の商品を買って1万円払ったことにしておいたけど、どうも自分の側が余分に得しているようだ、とわかる顧客だということです。自分の方が明らかに得しているとわかる人であれば、そのぶんをいずれ機会があれば何らかの形で返そうという心理が働きます。こうして「紹介」や「リピート」という行動につながるのです。

ビジネスの最初の段階では、こういう「仕事とともに相手によりたくさんのものを与えておく」という気持ちはとても重要です。この蓄積が、結局は将来、自分へのリターンにつながるのです。

ちなみに、話がさらに飛びますが、中国漢方医学では、こういう行いを「徳を積む」と考え、徳を積んできた人は、最後には自分が健康上困難な状況(病気)になったときに、自分の健康回復のための努力(養生)をアシストしてくれると考えます。つまり、徳の高い人は病気が治りやすいと考えられているのです。

今は、多くの人が相手から余分に金を取ることばかり考えているような時代ですが、相手が払いたくないという金をうまく払わせることができても、仕事は長続きしません。むしろ、相手に先に未払いの価値を残しておくことで、あとから余分にリターンをもらえるようにすることが、結果的に、自分の富を増やしていくのです。目先のもうけを追うな、とは多くの経営者が訓辞にしてきたことですが、その意味を、僕は以上のように理解しています。

さて、話をクヌギーのところに戻します。これから彼女は、一販売員としてのスタートを切ります。その仕事は決して「儲かる」ものではないだろうし、販売以外の本来の目的である、「本の仕事」も、この時点ではもうけにはつながらないでしょう。しかし、ここでクヌギーと関わりを持つ人々の心に、未来につながる価値をタダで提供することができれば、それが彼女の将来を豊かにすることになるし、これがThanksがMoneyに変るロジックなのだと僕は理解しています。

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